行 持 下 「 銀子一万鋌 zyo 」
- 2021/03/30
- 08:46
正法眼蔵 行 持 下
「 銀子一万鋌 zyo 」

趙 提挙 tyo-teiko は
嘉定聖主の胤孫 in-son なり
知明州軍州事、管内勧農使なり
先師を請して、州府につきて
陞座 sin-zo せしむるに
銀子一万鋌 zyo を布施す
( 趙 長官は
( 宋の嘉定皇帝の親族でした
( 明州の軍と州を治める地方長官であり
( 州内の農事を司る長官でした
( 長官は、先師 如浄禅師を
( 州の庁舎に招き、説法をお願いして
( 銀貨一万鋌を布施しました
先師 陞座了 sin-zo-ryo に
提挙 tei-ko にむかふて
謝していはく
某甲 soregasi 例に依 yo って
出山して陞座 sin-zo す
正法眼蔵涅槃妙心を開演し
謹んで以て
先公の冥府 mei-fu に薦福 sen-puku す
( 如浄禅師は、説法が終わってから
( 趙 提挙 tyo-teiko 長官に感謝し述べました
( 私は、慣例に従い
( 僧堂を出て説法にお伺いし
( 正法眼蔵涅槃妙心を説き
( 謹んで亡き御尊父の
( ご冥福をお祈りいたしました
但 tada し
是の銀子 gin-su
敢 a へて拝領せじ
僧家 so-ke
這般 sya-han の物子 mo-su を要せず
千万賜恩 si-on
旧に依って拝還 hai-kan せん
( しかし、この銀貨を頂く事は出来ません
( 僧は、このような物を必要としないからです
( この有り余るお志は
( これまでのように、謹んでお返し致します
提挙 teiko いはく
和尚、下官 a-kan 忝 katazikena く
皇帝陛下の親族なるを以て
到る処に且 ka つ貴なり
宝貝 ho-bai 見ること多し
( 長官は述べます
( 和尚殿、私はかたじけないことに
( 皇帝陛下の親族です
( 何処へ行っても貴ばれ
( 富を頂くことが多いのです
今 先父の冥福の日を以て
冥府に資せんと欲 omo ふ
和尚 如何 ikaga 納めたまはざる
今日多幸、大慈大悲をもて
少襯 syo-sin を卒留 sotu-ryu すべし
( 今日は亡き父の
( 冥福を祈る日です
( 冥府の父に感謝を捧げたいのです
( 和尚殿はそれをお納め下さりません
( 今日は本当に有難うございました
( どうかお慈悲により
( 少しばかりの御布施をお納めください
先師曰く
提挙 teiko の台命 dai-mei 且つ厳なり
敢へて遜謝 son-sya せず
只し道理有り、某甲 soregasi 陞座 sin-zo 説法す
提挙 聰 akira かに聴得すや否や
( 先師 如浄禅師は述べられました
( 提挙 teiko 長官のお言葉は重く
( お断り出来るものではございません
( しかし、このような道理があります
( 私は先ほど説法致しました
( 提挙 teiko 長官は
( お聞き取り頂けたでしょうか
提挙曰く
下官 只聴いて歓喜す
( 提挙 teiko 長官は述べました
( お話を承り、喜びで一杯です
先師いはく
提挙 tei-ko 聡明にして
山語を照鑑す
皇恐 ko-kyo に勝 ta へず
更に望むらくは台臨
鈞候 kin-ko 万福
( 先師 如浄禅師は述べました
( 提挙 tei-ko 長官はご聡明であられ
( 山僧の言葉をお聞きとり下され
( まことに恐れ多いことです
( 私の願いは、さらに万福であることです
山僧 陞座 sin-zo の時
甚麽 zin-mo の法をか説得する
試みに道 i へ看 mi ん
若 mo し道ひ得ば
銀子一万鋌 zyo を拝領せん
若し道ひ得ずんば
便ち府使 fu-si 銀子を収めよ
( 私は先ほど説法を致しました
( どのような事を述べたか
( お答えして頂ければ
( 銀貨一万鋌 zyo は頂戴致します
( もしお答え出来なければ
( その銀貨はお収め下さい
提挙、起 ta って先師に向って云く
即辰 soku-sin 伏して惟 o-mon みれば
和尚、法候動止万福
( 提挙 tei-ko 長官は立って
( 如浄禅師に答えます
( 和尚殿は万福であられる
先師いはく
這箇 sya-ko は是れ挙し来る底
那箇 na-ko か是れ聴得底なる
( 如浄禅師は述べます
( それは私が先ほど述べたことです
( どのように説法を
( お聞きとられたのでしょうか
提挙 擬議 gi-gi す
先師いはく
先公の冥福円成なり
襯施 sin-se は且 sibara く
先公の台判 dai-han を待つべし
( 提挙長官は熟考します
( 如浄禅師が述べられます
( 御尊父の冥福は
( 円満に果たされました
( お布施は、ひとまず
( 御尊父の判断を待つことにしましょう
かくのごとくいひて
すなはち請暇 sin-ka するに
提挙いはく
未だ不領なるをば恨みず
且 tada 喜ぶ師を見ることを
( そこで如浄禅師が暇乞いをし
( 提挙長官は述べられます
( お布施を受け取って頂けないことは恨みません
( 師にお目にかかれたことを嬉しく思います
かくのごとくいひて、先師をおくる
浙東 se-to 浙西 se-sei の道俗
おほく讃歎 san-tan す
このこと、平侍者 zi-sya が日録にあり
( 提挙長官は、このように述べ
( 先師を送りました
( この話を聞いた浙江省の
( 多くの人々が賛嘆しました
( このことは、侍者の記録に残っています
平侍者いはく
這 ko の老和尚は
得べからざる人なり
那裏 nari にか容易 taya-su く見ることを得ん
( 侍者は伝えています
( この老和尚は人の中の人です
( これが 「 人 」 と言う方には
( 容易に会えるものではありません
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