谿声山色 10 「 一撃 iti-geki に所知 syo-ti を亡ず 」
- 2021/05/04
- 07:22
正法眼蔵 谿声山色 10
「 一撃 iti-geki に所知 syo-ti を亡ず 」
また香厳 kyo-gen 智閑 ti-kan 禅師
かつて大潙 dai-i 大円禅師の会 e に
学道せしとき、大潙いはく
「 なんぢ聡明博解 haku-ge なり
.......章疏 syo-syo のなかより記持 ki-zi せず
............父母未生 mi-syo 以前にあたりて
..................わがために一句を道取 do-syu しきたるべし......」
( かつて、香厳禅師が
( 大潙禅師の道場で学んでいた時
( 大潙禅師は述べられました
( あなたは聡明博識ですが
( 経書の中の知識からでなく
( あなたの父母が生まれる以前
( そこに立って、何か述べてみて下さい
香厳、いはんことをもとむること
数番すれども不得なり
ふかく身心をうらみ
年来たくはふるところの書籍 syo-zyaku を
披尋 hi-zin するに、なほ茫然 bo-zen なり
( 香厳禅師は、深く考えましたが
( 答える事能わずでした
( 深く自分を恨み
( これまで集めた書物を読み
( 答えを探しますが
( ただ茫然となるばかりです
つひに火をもちて
年来のあつむる書をやきていはく
「...画にかけるもちひは
......うゑをふさぐにたらず
......われちかふ、此生 si-syo に
......仏法を会せんことをのぞまじ
......ただ行粥 gyo-syuku 飯僧 han-so とならん.....」
といひて、行粥飯して年月をふるなり.
( 遂にこれまで集めた書を燃やし
( 「 絵に描いた餅は飢えを満たさず
(..........今生に、仏法に出会うことは望まない
(..........ただ、行粥飯僧として務めよう....」
( こうして行粥飯を務め年月が過ぎました
行粥飯僧といふは
衆僧 syu-zo に粥飯を行益 gyo-yaku するなり
このくにの陪饌ai-sen 役送 yaku-so のごときなり
( 行粥 gyo-syuku 飯僧 han-so とは
( 修行僧の食事の世話をする役目です
( 食に関する世話係のようなものです
かくのごとくして大潙にまうす
「.....智閑は心神昏昧 kon-mai にして
.........道不得 do-hutoku なり
.........和尚、わがためにいふべし...........」
( 香厳禅師は
( 大潙禅師に述べました
( 行き詰まってしまいました
( ご指導を乞いたく思います
大潙のいはく
われなんぢがために
いはんことを辞せず
おそらくは、のちになんぢわれをうらみん
( 大潙禅師はお答えられます
( もし、私があなたを導けば
( おそらく後になって
( あなたは私を怨むはずです

かくて年月をふるに
大証 dai-syo 国師の蹤跡 syo-seki をたづねて
武当山 buto-zan にいりて
国師の庵のあとに、くさをむすびて爲庵 i-an す
竹をうゑてともとしけり
( このようにして
( 香厳禅師の年月は流れました
( ある時、大証国師の跡を訪ね
( 武当山へ赴きます、そして
( 大証国師の庵の跡に草庵を建て
( 一人坐す生活を始めます
( 友は、自ら植えた竹でした
あるとき、道路を併浄 hei-zyo するちなみに
かはらほとばしりて、竹にあたりて
ひびきをなすをきくに、豁然 katu-nen として大悟す
( ある日、道を掃いていた時
( 小石が飛び竹に当たります
( 香厳禅師はその響きを聞き
( すっかり展望が開けます
沐浴 moku-yoku し
潔斎 ke-sai して
大潙 dai-i 山にむかひて
焼香 syo-ko 礼拝 rai-hai して
大潙にむかひてまうす
「...大潙大和尚
.......むかしわがためにとくことあらば
.......いかでかいまこの事あらん
.......恩のふかきこと、父母よりもすぐれたり......」
( 香厳禅師は身を清め
( 大潙山に向かって焼香礼拝し
( 大潙禅師に御礼を述べられます
( 大潙禅師、あなたが
( 教えてくれなかった御かげで
( 今日、自ら気付くことが出来ました
( この恩は父母の恩にも勝ります
つひに偈 ge をつくりていはく
「...一撃 iti-geki に所知 syo-ti を亡ず
.......更に自ら修治せず
.......動容古路を揚 a ぐ、悄然 syo-zen の機に堕せず
.......処々蹤跡無し、声色 syo-siki 外の威儀なり
.......諸方達道の者、咸 koto-goto く上上の機と言はん......」
( そして詩を作られます
( 竹は、小石の受けて響きをなします
( この身骨格は、坐の一撃を受け
( 威儀の響きをなします
( 父母未生 mi-syo 以前
( さらにさかのぼり永劫より続く
( 私がしでかし消すことが出来ないもの
( 宇宙が受け入れを拒むもの
( その 「 業 」 こそ
( 私の骨格筋肉五感の
( その在り様に他なりません
( しわくちゃの古いシャツにアイロンをかけるよう
( それを消せるのは、それを創った本人私のみです
( 無限の業、すなわち自らの立ち居ふるまいを
( 古仏の威儀でアイロンし伸ばす
( 無限の業は解放されて
( 宇宙の歩みの中へ帰って行きます
( 仏道は成仏を示すのです
この偈を 大潙呈す
大潙いはく 「...此の子、徹せり......」
( この詩をみて
( 大潙禅師は述べられました
( この人は帰道を得たと
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